久坂部羊の『虚栄』

『虚栄』
久坂部 羊、KADOKAWA、2015年9月

カドカワストアのHPより)
 凶悪化がん治療国家プロジェクト「G4」の発足に、外科医・雪野は期待を抱いた。手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法。四グループの邂逅は陰謀に満ちた覇権争いに発展。がん医療の最先端をサスペンスフルに描く。

 久坂部 羊:大阪府生まれ。大阪大学医学部卒業。作家・医師。2003年、小説『廃用身』でデビュー。小説に、『破裂』『無痛』『悪意』『芥川症』『いつか、あなたも』、エッセイに『大学病院のウラは墓場』『日本人の死に時』など、医療分野を中心に執筆。

カドカワストアのHP 東えりかの書評からの抜粋)
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 忌まわしい凶悪がんの対策のため、政府は「プロジェクトG4」という重要政策会議を立ち上げる。外科、内科、放射線科、免疫療法科の四方向からのアプローチをそれぞれ得意とする大学に振り分け、研究を競わせたのち、力を統合して総力戦によってこの病の克服を目指すという。
 手術で患部を切り取ってしまうのが一番という阪都大学、抗がん剤治療を得意とする東帝大学、放射線によって患部を粛清することで患者の負担を減らすという京御大学、副作用のない新しい治療法である免疫療法をアメリカから導入した慶陵大学。研究者たちはほかの大学より一歩でも先んじようと新しい研究に没頭する。
 しかし正攻法だけでは成功は手に入らない。政治家にすり寄る。機械メーカーや製薬会社と密約を結ぶ。時にはマスコミにスキャンダルをリークして大バッシングを繰り広げていく。医療小説の金字塔とも言われる山崎豊子『白い巨塔』の時代よりさらに非情になった医局のヒエラルキー。過激で残酷な権謀術数が繰り広げられていく。
 成功する者もあれば転落していく者もいる。ひとつひとつのエピソードはここ数年で明らかになった医療や科学関係の事故やねつ造などを彷彿とさせ、一般の人には見えてこない裏の駆け引きに「そうだったのか」と驚かされる。小説だとわかっていても戦慄を覚えるほどリアルだ。
 人の命を救うこと、それを目指して医者という職業を選んだはずだ。その意志を最後まで貫き通すことが出来るのか。がんという病気は果たしてなぜ存在するのか。大きな命題を私たちに突きつけてくる物語であった。


TNの読後感
 久坂部羊の本は既に少なくとも5冊は読んでいる。どれも前半は面白い。話がどう展開するのかワクワクする。中頃になると話がもつれてきて読むのがつらくなる。最後は意味がよく分からないまま終わるか、あまりに常識的な結論になり面白くないと感じる、そんな読後感が続く。それでも、又、読んでしまう。久坂部は取りあえずTNが今、気になる作家です。
 名前は変えているが、大学は阪大、京大、東大、慶応を指すと分かるし、久坂部が大阪生まれなので茨木、高槻、千里中央などのTNの生活圏がよくでてくるのも興味の一つです。

 親しい大事な人が膵臓癌ステージ4で化学療法を受けているため癌の話は身につまされる。医学的なことの全てを理解したいと真剣に読みました。
 結論は癌はまだまだ解明されていないということでした。末期癌でも助かる人もいるが、初期癌で治癒できると思われていても死ぬ人がいる。その違いが何から来るのかは分からない。

 岸上律という放射線科教授は、「真ガン・偽ガン」説を主張する。真ガンならどんな治療をしても治らないし、偽ガンならなにもしなくても治るという。まさに慶応大学の講師だった近藤誠の「本物のガンとガンもどき」説そのものです。参考文献をみると近藤の著作がいっぱい載っています。久坂部は新聞や週刊誌の記事まで含めて全部読んで、かつ自分の医学的知識と照らし合わせてなおかつ、近藤説を否定すべき根拠は無いと考えているようです。小説では岸上は自分のガンを治療せず死んでいく。

 この本を読んで「手術による切除、化学治療、放射線治療、免疫治療」についての現状はおおよそ分かったような気がします。さて自分がガンを宣告されたら何を選ぶのでしょう。今は「何もしない」ことを選ぶと思っています。70歳を越えたので割り切れるだけかもしれません。

 蛇足 参考文献の新聞雑誌では朝日と読売が圧倒的に多い。医学的記事が大多数だが、STAP論文などの論文不正問題にもかなり興味をもったみたい。参考文献を詳しく公表している本は著者の思考過程がわかるので好きです。

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